「氷艶~月光りのごとく」を観て

7月26日「氷艶2019〜月光りのごとく」初日の昼公演を観てきました。まだ楽公演も前売り券持っていますが、とりあえず初見のインパクトが残っているうちに感想を書き留めておこうと思います。

なおネタバレでいきますこと、ご了承下さい。

まず作品全体について。
前回「氷艶2017〜破沙羅」と同じく戸部和久さんが「月光りのごとく」も台本を手掛けていますが、今回は歌舞伎=松竹を離れたせいか「戸部寸」のペンネームを使われています。
個人的には「破沙羅」の台本の方が完成度は高かったと思います。演出の松本幸四郎(当時・市川染五郎)さんの方向性もあったことでしょうが、「芝居の国から異界の銀盤へ」という一貫した世界観が強固だった「破沙羅」の方が物語への求心力があったと感じられるのです。
もしかしたら歌舞伎の枠のなかった今回は、戸部さんにとっても模索だったのかもしれません。今回はミュージカルや舞台、映像作品等様々な分野からの俳優、歌手、ダンサー達の参加だったので、これを有機的に結びつけるストーリー展開を考えつくは大変なことだったろうとは容易に想像がつきます。
結論から言えば「破沙羅」のような濃厚な世界感はないものの、「月明りのごとく」は新しい日本的なエンターテイメントへの挑戦として、私は存分に楽しむことが出来ました。
それには出演者達の多様な個性を最大限に引き出した宮本亜門さんの演出の力が大きかったことは言うまでもありません。そして、それに応えて最良のパフォーマンスを披露したキャスト達の才能と献身ががあってこその実現です。

さて「月明りのごとく」はご存知のとおり「源氏物語」に形を借りていますが、蓋を開けてみると想像していた以上に自由過ぎるアレンジで、まあ紫式部の世界を期待していた向きには不評かもしれませんね…。
光源氏の恋物語は原作に沿った藤壺中宮との禁断の恋と、オリジナルの源氏+紫の上+朱雀帝の三角関係に絞り(松浦が明石の上をアレンジしたキャラかな?と想像していましたが全然関係なかったし、朧月夜尚侍は源氏との絡みなし)、 宮中の雅の世界ではなく市井に飛び出す光源氏となっていました。
源氏と弘徽殿の女御方との政争は、善vs悪の闘争に置き換えられ、友でありライバルだった頭の中将は源氏に献身的に仕える「破沙羅」の弁慶のポジで、オリジナルのキャラ長が弾正殿的な悪の総元締め。

等々述べてるうちに楽公演が始まっちまいそうなのでw、さらなる物語の分析?は楽に再見してからにします。

取り急ぎ我らが高橋大輔の光源氏について。
女物の着物を被って市場を爆走するやんちゃな皇子(臣籍降下しているから正しくは皇子ではなくなってますが)としての登場にまず吃驚。考えてみれば原作の源氏も異性に興味を抱き始めた「雨夜の品定め」の頃はやんちゃなところあったっけかな…とにかく光る君を」トリックスター」として話を始めたのは想定外でした。お衣装も髪型もこれ元服前のものなんですよね?大ちゃんの小柄な体格と小回りの効く巧みなスケーティングを活かしての「童形」の光る君の設定でしょうか。

そんなやんちゃな光る君も、藤壺中宮との禁断の恋、紫の上との出会い、弘徽殿の女御方との対立、海に流された末に女海賊・松浦や頭の中将と共に悪に立ち向かうという過程を経て次第に内省的になっていきます。
そんな風に運命に翻弄されていく中で、光る君の台詞、光る君の歌、と大ちゃんの初挑戦が続いていくのです。
最初の台詞のあとしばらくは「これ録音かな?」とも思ったのですが、スケート滑った後の台詞で息が少し切れていたので「生台詞!」と確信しました。
台詞だけでも衝撃だったのに、歌それも生歌ですよ!しかも悪くない!高音伸ばしてるし!私は「破沙羅」の「岩長姫寝室の場」の時と同じくらい口あんぐり茫然自失状態でしたよもう。
松浦や光る君が歌いながら船で都に向かうのがアリーナの私達の方に向かってきた時、悶絶してました私。ここほんとレミゼでしたよねw
ちなみに私は東アリーナ席だったのですが、凛々しい光る君(特に宙乗り時)や松浦、陰陽師の変顔が真正面で見られて最高でした!楽は南スタンドか…異なるアングルで見るのも楽しみにしておこう。

荒川弘徽殿のやけくそ熱演(←褒めてる)、ステファン帝とリプ紫の上の連れ舞い、俳優の皆さんのスケート含めての大奮闘などなど書きたいこと満載ですが、それは楽を見てからにします。

最後にどうしてもこれだけは。
最初に書いたように、物語の求心力は「破沙羅」の方があったと思っています。「月明りのごとく」は善と悪の対立と混在が「破沙羅」ほど濃くなくて(弾正殿の言う「花の歌舞伎は四百年」は伊達じゃない)、その辺りに物足りなさがあったのは否めませんでした…しかし「月明りのごとく」における光源氏とは何者なのか、と明らかになった終幕で、それまでの微かな不満を吹き飛ばされる想いでした。
松浦と紫の上の自己犠牲、母を我が手にかけざるを得なかった兄・朱雀帝の悲劇を前にして光源氏は叫ぶ。「私が愛した者は皆不幸になるのだ!」
ここでの渾身の歌とスケート(散々体力消耗してからの滑り、大変だったと思う)で表現されたものは…女性たちを愛し愛され頭の中将や松浦という仲間を得ても、それでも光源氏は孤独だった。ひとり夜の闇に輝く月の光だった。「月明りのごとく」が描こうとした物語の芯に触れ、光源氏の歌とスケートによる絶唱に、私は涙涙でした。
そんな源氏の背後に長道が忍び寄り…
ラストシーン。新たな帝になる若宮を都に送り出した藤壺の前に源氏の霊が現れる。
今回、宙乗りしたのは、陰陽師の織田君と、この終幕での大輔源氏でした。
東アリーナの私の席からは空中に浮かぶ大ちゃんの表情がはっきり見えました。その虚無の表情、宙に舞うフォルムの美しさ(体幹良いから空中でこの姿勢取れるのだろうなあ)…「源氏物語」の「雲隠れ」と言う章は、章の名前のみで本文がない。すなわち光源氏の死を伝える章でしたが、空中の大輔源氏の虚無の表情を見て、この宙乗りで「雲隠れ」の空白の章を表しているのだと感じました。

カーテンコールでの場内スタオベ、「ガンに負けずに頑張りました!」と元気いっぱい登場した亜門さん…
ほんと他のスケーターや役者さんたちのことまで書くに至らなくて、自分が歯がゆいのですが…まもなく楽公演のために出発なので、ひとまず筆を置きます。
初日から4公演を経て、芝居がどう深化しているか、楽を見た後にまた感想を述べてみたいと思っています。

それではいざ!光るの君のもとに!

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この記事へのコメント

Hi-chan
2019年07月30日 21:27
夏さんお久しぶりです。私は27日の昼公演をみてきました。前日のうちに”生歌”情報は目にしていたので、期待とちょっぴり不安の入り混じった状態で着席しましたが……LOTFだって破裟羅だって半端なものを舞台に乗せる人じゃありませんでしたものね!大輔さんまたまた頑張りましたね~!オペラ座から13年、この人のファンで良かったと何度思わせてもらったことでしょう。また大輔ファンであることの幸せにどっぷり浸っています。と同時に例に漏れず氷艶ロス! 高橋大輔という人は根がホントに素直なのでしょうね。変なプライドなどない分、なんでもぐんぐん吸収して自分のものにしてしまう。腹をくくった大輔さんの凄さに惚れ惚れしました! だらだら長文ごめんなさい。楽日のレポート楽しみにしています!膝お大事に!
2019年08月01日 18:09
Hi-chanさん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。長いなんてとんでもない!楽しく読ませて頂きました。
ほんとうに…2016年LOTF、2017年破沙羅、2018年代現役復帰、そして2019年月明りのごとく、とここのところ大ちゃんには驚かされっ放しです。その度に、事前は「うまくいくかなあ?」と気を揉み、終わってみれば「大ちゃんすごすぎ!」になるんですよねえ。
私も「オペラ座の怪人」からのファンです。まだ少年っぽさやチャラさが残っていたあの大ちゃんがこんなところまで来てしまうなんて、13年前の私に教えに行っても絶対信じないw
そしてまたもや氷艶ロス…今、楽含めた2公演観た感想書き始めてますが、こうして振り返ってみることで少しはロスが癒されるでしょうか…?とりあえずFOIとBS日テレの放送を待つことを生きがいにして乗り切りましょうね〜
大ちゃん荒川さん達大変な体力消耗だったろうから、くれぐれも体調に気を付けてほしいです。大ちゃんは試合もあるし…大ちゃんにも応援する我々にも道はまだまだ続きますね!

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