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zoom RSS さよならデコちゃん

<<   作成日時 : 2011/01/02 23:31   >>

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デコちゃんこと女優・エッセイストの高峰秀子さんが2010年12月28日肺がんで亡くなりました。享年86才。
日本映画史上最高の女優の訃報に際して、あまりにもくだけすぎた標題かもしれませんが…。

私はそこそこ古い日本映画を見ている方だと思うのですが、訃報に際して、非常に多くの高峰秀子出演作品を見ていることに気づきました。彼女の代表作に第一に挙げられる『二十四の瞳』や『喜びも悲しみも幾歳月』を見ていないので、あまり威張れませんが…。
比較的引退は早かったものの、子役から娘役スター、成熟した大人の女優になるまでの長い俳優活動、そしてなんといっても質の高い名作に数多く出演していることが、彼女の偉大さです。

ざっと私が好きな彼女の出演作を挙げてみると、木下恵介監督『カルメン故郷に帰る』『女の園』、稲垣浩監督『無法松の一生』、豊田四郎監督『雁』、そして極めつきは『浮雲』『流れる』『あらくれ』『女が階段を上がる時』等々の成瀬巳喜男監督作品です。
その中でも一本というと、やはり成瀬作品の最高傑作、いや日本映画史上あるいは世界映画史上の文芸映画の最高の一本であると言える『浮雲』でしょう。私は映画を見るより先に林芙美子の原作を読んで圧倒されましたが、映画を見たら、まったく原作と同じ高水準の壮絶なまでの作品でした。森雅之演ずる「二十世紀最大のダメ男」とまで言われる女にだらしのない自堕落な男・富岡、そして高峰秀子演ずるゆき子もまたダメ女で、二人はずるずるとくされ縁を続けていく。そんなダメな男女が墜ちていく様が「滅びの美学」にまで高められた名作中の名作。ご覧になっていない方がいらしたら、ぜひぜひ見て頂きたい、日本が世界に誇る至高の芸術作品です。
ついでといっては何ですが、森雅之とのコンビでは、一昨年の神保町シアター森雅之特集で見た島耕二監督のコメディ映画『グッドバイ』もよかった。原作者の太宰治が執筆途中で情死してしまったため、映画のラストシーンがなんともしまらないものになってしまって名作とは言い難いですが、この映画での高峰+森コンビは、まるでキャサリン・ヘップバーン+スペンサー・トレイシーみたいに丁々発止の演技合戦で楽しかったです。いつも成瀬作品でぐだぐだな男女関係演じていた両名優でしたが、もっとコメディ映画も残して欲しかったなあ。

コメディといえば、『カルメン故郷に帰る』のおバカなストリッパー役、これも必見ですね!
女優・高峰秀子の魅力を語り出すと切りがなくなりますが、まず第一に演技力を挙げるべきでしょう。たとえば、『カルメン』とは打って変わって、同じ木下作品でも『女の園』では、封建的な女子大の寮生活でナーヴァスブレイクダウンになって破滅する女子大生を演じていますが、あの精神的に追い詰められていく演技は彼女でなければ出来なかったでしょう。
また、『無法松の一生』で、吉岡夫人(高峰)が無法松こと人力車夫の松五郎(三船敏郎)に恋心を告白された時−それまで「使用人」としか見ていなかった松五郎に突然「異性」を感じて、本能的にあとずさりするところなど、まさにうならされるほどの巧さでした。
成瀬作品での潔癖でおよそ水商売が合わないのに水商売の世界に身を置かざるを得ない女を演じた『流れる』『女が階段を上がる時』も、彼女の当たり役。後者のトレーラーの一人称のナレーションがクールです。




最後に、エッセイストとしても高峰さんは一流でした。晩年は夫の松山善三氏との共著が有名ですが、子役時代からの波乱の半生を綴った『私の渡世日記』は、女優としてでなく、昭和の時代を生き抜いた一人の女性の一代記としても大いに読み応えあります。養母との愛憎の確執、少女時代の黒澤明監督との実らなかった恋、そして成人してからも華やかなスターでありながら絶えることのなかった生活の苦労。谷崎潤一郎、梅原龍三郎ら超一流の文化人・芸術家に可愛がられながらも、家庭的に恵まれなかった彼女が、松山善三との結婚でようやく幸福な人生を手に入れるまでの、数奇といってよい大河小説のような自伝でした。

86才という年齢に不足はないのでしょうが、もっともっと長生きされるだろうと信じていたので、とても残念です。もう一度繰り返しますが、高峰秀子は原節子と並ぶ日本映画史上最高の女優だったと思います。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。



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追悼 高峰秀子
昨年末の、12月28日、女優の高峰秀子さんが肺がんのため亡くなりました。享年86 ...続きを見る
ごみつ通信
2011/01/10 13:24

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。

私も彼女の訃報を年末に知って、ビックリ&さびしい気持ちになりました。
ちょっと前に新刊本を出されてたのでてっきりまだまだお元気なものと思っていたので、驚きもひとしおでした。

お正月と言う事もあり、私も後日記事にするつもりでいました。本当に惜しい女優さんを失ったと思います。
彼女は凄いですよね。

色々な思いがあるので、また記事にする時に、気持ちを整理したいな〜なんて思ってます。

高峰秀子さんのご冥福をお祈りしたいと思います。
ごみつ
2011/01/03 15:24
>ごみつさん、こんばんは。
訃報が入ったの大晦日でしたね。ショックだったし、ほんとうにさびしいことです…。
私もほんの数年前だと思うのですが、元気に早足で歩いている姿を近所の方が見かけた…というエピソードを読んだ覚えがあるので、まだまだ「先の話」だろうなと思い込んでいました。
折しも、2月に世田谷文学館恒例の映画鑑賞会&展示、今年は成瀬巳喜男監督特集です。「浮雲」上映&トークショーもあるので、行ってみるつもりです。

ごみつさんの追悼記事、待っています。

2011/01/03 18:43
おはようございます!訃報に関するブログに失礼かも…「カルメン故郷に帰る」にシューベルトの「糸を紡ぐグレートヒェン」が流れていたような…
藤野 矢舞
2014/04/29 04:49
こんばんは。
「カルメン故郷に帰る」は一度テレビで見たことあるのですが…気がつきませんでした。次に見る機会に注意してみます。

2014/05/01 01:52

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