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help RSS 「皇帝カルロスの悲劇」

<<   作成日時 : 2007/03/17 23:35   >>

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画像『皇帝カルロスの悲劇〜ハプスブルク帝国の継承』(藤田一成・著 1999年 平凡社)を読了。
16世紀にスペイン、フランドル、ドイツ、シチリアなどにまたがる広大な領土の君主であった、神聖ローマ皇帝カール五世(スペイン国王としては、カルロス1世)の最晩年を追った歴史書です。言うまでもなく、このカール五世=カルロス一世は、ヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』に幽霊(?)として登場するカルロ五世その人。当然ながら、息子のフェリペ二世(フィリッポ二世)、そしてまだ少年だった孫のドン・カルロス(ドン・カルロ)も登場するので、オペラ・ファンとしての見地からも読後の感想を述べてみたいです。

ちなみにこの本の著者は、どの言語で名前を表すか苦慮されたようで、「カール五世」と「カルロス一世」を折衷させた「カルロス五世」と標記していますが、私はオペラに合わせてイタリア語標記させて頂きます。
しかし、この本、カルロ五世の母のファナを「ファナ狂女」で通してしまったのは、いかがなものか…。確かにカルロの親族にファナという名前が他にも何人もいるので、区別するためでしょうが、せめて「ファナ女王」とか「ファナ母后」とかにすればよかったのに。

本題に入ると、まず50代後半に入り、痛風の病に悩まされるようになったカルロ五世が、政治や戦争や宗教対立に疲れたこともあり、すべての皇位・王位から退位して、スペインのユステ修道院に隠遁する準備から始まり、修道院での生活、そして死まで追っています。随分と克明な記録が残り、また偉大なる君主の人間的な側面が浮き彫りにされているのが、興味深いです。
まず、大きな権力を握っていた神聖ローマ皇帝が隠遁生活に入るという前代未聞の決断と実行は、カルロの性格に大きく負っているようです。信心深く、融通がきかないくらいに生真面目、厳格で、極めて内向的。この性格は、息子のフィリッポ二世にも受け継がれたというので、オペラ『ドン・カルロ』鑑賞の参考になりますね。
心温まるのは、カルロ五世が謹厳実直一点張りであっても、家族に対する情愛が濃かったこと。政略結婚であったにもかかわらず、愛妻家(残念ながら、皇妃イサベルは既に亡くなってはいましたが)。隠遁生活に入ってからもフィリッポのことを常に気にかける息子思い。
またカルロ五世は女運のよい、といってよい人だったようです。妃や叔母、姉妹、娘を摂政として起用し、広大な領土運営を分担させていましたが、彼女らが実によくできた女性たちで、見事に任を果たしています。ハプスブルクの血は、政治に向いていたのでしょうね。
こういう人たちに帝王教育を授けられ、フィリッポも申し分ない後継者に育ったまではよかったのですが、問題はフィリッポの息子ドン・カルロ。隠遁地に向かう途上、11歳になった孫と初対面したカルロ五世は、
彼はとても騒々しい子のようだ。彼の態度や性格はとても好きになれない。これから彼はどうなるのだろう

と、周囲に慨嘆したとか。どうやら、オペラはフィクションとはいえ、ドン・カルロの悲劇は既に芽生えていたようです。

ユステに隠遁してからの記録は、意外な窮乏生活(王室というのは、財政難になるものだったのですね)や厳しい自然条件に不満を漏らす臣下達を尻目に、マイペースで隠遁生活を送る元皇帝の最晩年が克明に描かれています。偉大な皇帝の玉に瑕であったらしい大食癖、次第に進行する病、そして苦しみながらも気丈に迎えた臨終など、「人間」カルロ五世像がなまなましく伝わってきました。
どうやらこの性格をフィリッポ二世が受け継いだらしいことを思って、あらためてオペラを観ると、理解がいっそう深まるような気がします。それから、私はこの日記で触れることができませんでしたが、オペラでも描かれたスペインとフランドルの関係、カトリック対プロテスタントの抗争(火刑のシーンなど)についても、同様です。
(上の図は、ティツィアーノが描いたカルロ五世の肖像)

関連記事 : 岩波文庫版「ドン・カルロス」
ウィーン国立歌劇場「ドン・カルロ」ビデオ・クリップ
トリノ王立歌劇場 「ドン・カルロ」


皇帝カルロスの悲劇―ハプスブルク帝国の継承 (平凡社選書)
平凡社
藤田 一成

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