アルフレッド・ヒッチコック監督 「レベッカ」

「レベッカ」"Rebecca"(アルフレッド・ヒッチコック監督 1940年)

ダフネ・デュ・モーリエの小説を原作とするアルフレッド・ヒッチコック監督のハリウッド進出第一作。
この映画を最初に見たのは10代か20代の時で、たぶんそれ以来の鑑賞。その頃、日本でちょっとしたヒッチコック・リバイバル・ブームがあり、私も劇場や映画でけっこうな本数見たものでしたが、私の好みは「サイコ」「めまい」のようなエロくて怖い系と、「北北西に進路をとれ!」「知りすぎた男」のようなソフィストケイテッドな(当時の)現代劇。レベッカ」はメロドラマっぽいなーと生意気な感想持ったような記憶。

今回、超久しぶりにBSプレミアムから録画したのを見たら、いやー面白かった!伏線が巧みで、ネタバレ知った後により楽しめるんですよね。
1940年制作というから「風と共に去りぬ」と同時期、80年も昔の白黒映画ですが、全然古くさくない!永遠に新鮮味を失わない古典映画(クラシック・ムービー)。

タイトル・ロールの「レベッカ」は一度も姿を現さない(肖像画のみ)のが、今見ても斬新。原作では、ジョーン・フォンテーン扮するヒロインは一人称の「わたし」で、映画でも最後まで彼女の名前は明らかにされない。
アメリカ人の有閑マダムの秘書として南仏に滞在していたアメリカ娘「わたし」は、中年の英国紳士マキシム・ド・ウインター(ローレンス・オリヴィエ)と知り合い、恋に落ちる。マキシムにプロポーズされ、いわゆる玉の輿に乗った「わたし」はイギリスの海辺に建つマキシムの大邸宅マンダレーに到着する。
やがて無邪気だった「わたし」は、マンダレーの屋敷のそこここに「R」のイニシャルとともに痕跡を遺すマキシムの前妻レベッカの幻影に苦しめられるようになる…。
マキシムの友人の「あなたにはレベッカの持っていなかった誠実さと慎ましさがある」という言葉どおりの内気で生真面目な「わたし」を演じたジョーン・フォンテーンが実にはまり役。前半はメークがとても薄く地味にしていたのに、それがとても美しい。少女時代を東京で過ごした経歴を持つ彼女は、その影響もあるのか、当時の濃厚なハリウッド女優の中では珍しい清楚さですね。
夫となるローレンス・オリヴィエの美中年っぷり、そして非常に弱い(情けないといってもよい)ところもある男性像の造形はやはり見事。

マンダレーを支配しているのは、1年前に海難事故で亡くなったレベッカを崇拝し続ける家政婦長のダンバー夫人。ダンバー夫人の口から語られる完璧な美女レベッカの影に「わたし」は脅かされ追い詰められ、マキシムの愛情も信じられなくなっていく…。最初、私はダンバー夫人はレベッカに同性愛的要素で魅了されているのだろうと思っていたのですが、今回見ると、それもあるかもしれないけれど、彼女は「自己愛型人格障害」なのだろうと考えました。歪んだナルシシズムの対象を他者(本人の持っていない美貌の持ち主とかスターとか)に自己投影することで優越感にひたる、というやつです。

ダンバー夫人の策略で、絶望した「わたし」が飛び降り自殺しようとした寸前、遭難船が打ち上がり、レベッカの遺体が発見されたという知らせが入る。
以降、マンダレーのゴシック調の雰囲気は一転して、審問会を中心とした現実的なサスペンスとなります。そしておどおどした「子鹿」のような娘だった「わたし」は、夫を支える強い女へと一気に成長します。
レベッカは実は酷い淫蕩な女で、侮辱され挑発されたマキシムが衝動的に殴った後に倒れて絶命していた。殺意はなかったものの、うろたえてしまい死体を船に乗せて海に沈めたというマキシムの告白を聞いた「わたし」がむしろ喜びの表情を見せる演出と演技がすごいですね。夫の告白の恐ろしさよりも、彼がレベッカを愛するどころか憎んでいたという事実を喜ぶ気持ちの方が強いのです。

後半にはレベッカの従兄弟と名乗るジャックという男がずかずかと物語に踏み込んできて、俗臭ぷんぷんさせながら、マキシムを殺人犯として告発しようと引っかき回しますが、演じたジョージ・サンダースという怪優、私すごい気に入りなんです。ヒッチコックの「海外特派員」でのコメディ・リリーフ役、シリアス映画「イヴのすべて」での空恐ろしい程したたかな劇評家役など、出演した映画すべてで登場した途端、場をさらってしまうお方ですよ!
ちなみにこの展開の中で、マンダレーの外に出ると、ダンバー夫人がすごい場違いで弱々しく見えるのが面白い。

クラシック・ムービーなので完全ネタバレでいきますが、ジャックは実はレベッカの愛人の一人。まあほんとうに従兄弟かどうかも怪しいんじゃないですかね。レベッカは自分の子供を妊娠していたので、マキシムには殺人の動機があるというのがジャックの主張。
実際「他の男の子供がマンダレーの屋敷の跡継ぎになる気分はどう?」とレベッカに嘲られ思わず殴ってしまったと、マキシムは「わたし」だけに打ち明けています。
マキシムと「わたし」がこの窮地を脱するのは、レベッカが偽名で通っていた医師の証言というのが、後になってみるとあっさりな解決法なのですが、ヒッチコックの語り口が巧みなので、見ている時はハラハラドキドキでした。たとえ再見でも。

レベッカは妊娠などしておらず、実はガン(おそらく子宮ガン)で余命いくばくもないことを宣告されていて、水死は自殺だったと審問会は結論する。こうしてマキシムはめでたく無罪放免…ほんとうは殴って過失致死まではやっているのですが、それはマキシムと「わたし」だけの秘密。
それにしても恐ろしいのは、嘘をついてまでマキシムを挑発し、彼を殺人犯に仕立てようとしたレベッカの悪魔っぷり…。自分の死後まで人を愚弄し支配しようとする。いくらなんでも不確定要素の多い計画で、失敗に終わったけど。
「負け」が決まった途端に本業の車のセールスに精を出すジャックのいじましさ、そしてマンダレーに火をつけてレベッカに殉ずるダンバー夫人。
崇拝するレベッカの乱行をダンバー夫人は果たして知っていたかどうか…ただ「わたし」に散々吹き込んでいた「旦那様が愛しているのはレベッカ様だけ」ということは心から信じていたのではないでしょうか。その幻想が破れた時、ダンバー夫人の世界は崩壊したのだと。
炎に包まれるマンダレーに到着したマキシムの元に駆けつけた時「わたし」が犬を連れているのが象徴的。この犬はもともとレベッカに飼われていたらしく、「わたし」がマンダレーに初めて来た日には、部屋を出て行ってしまうくらい冷たかったのに、いつのまにか「わたし」にリードでつながれて散歩するようになっていました。善良な「わたし」がレベッカの亡霊を追い出していった象徴ではないでしょうか。それでも、そこここに「R」のイニシャルの残っていたマンダレーをダンバー夫人が焼き払ってくれてたのはよい仕上げでした。

この後、マキシムと「わたし」がマンダレーから離れたどこかで穏やかな人生を送ったと信じてよいのだと思います。
そしてヒッチコックは以降ハリウッド最高の娯楽職人監督へ…今回、その原点である作品を堪能することが出来ました。
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この記事へのコメント

ごみつ
2021年02月27日 22:38
こんばんは!

「レベッカ」面白いですよね!

そうそう、ヒッチコック自身も、この作品は映画会社からの制約が多くて、自分の作品じゃないみたいな事言ってたみたいですが、アカデミー作品賞もとったし、彼の大きな出世作である事は間違いないですよね。

最初に見たのはたぶん、中学~高校生の頃で(NHKか、東京12chの想い出の洋画劇場かどっちか)印象としてはモノクロの画面とダンバース夫人のキャラクターもあって、おどろおどろしい感じが残ってたのですが、大人になって再見したら、けっこうバリエーションのあるミステリーで驚いた記憶があります。

それとジョージ・サンダース!この人、ホントに良い役者さんでしたよね。「レベッカ」でも異彩をはなってました。
あの怖~いダンバース夫人をダニーとか呼んでみたりして、場の雰囲気を壊します。(笑)

「海外特派員」も大好きな作品です。もしかしたら、これがヒッチコックで一番好きかも!くらいな勢いでお気に入りです。(*´ω`)
2021年02月28日 19:10
ごみつさん、コメントありがとうございます。

たぶんごみつさんがテレビ見た時、私も見たのでは😄NHK教育で1ヶ月1回日曜の夜にあった「世界名画劇場」ではないかと。あの頃は、あの枠がテレビでクラシックムービー特にヨーロッパ映画を見る唯一の機会でした。
実はその前だと思うのですが、日本のテレビで「レベッカ」の翻案ものやっていて、私はちらっとそれ見た覚えがあるのです。マキシムが高橋幸治、「わたし」が高橋恵子(当時は関根)。これなんとレベッカが画面に出てきちゃったんですよ。浜三枝が演じて、高橋幸治と夫婦喧嘩してました。私は新聞評か何かで、このドラマの原作が「レベッカ」という映画で、レベッカが出てくるのがダメって書かれていたのを覚えています。ほんとうにこのサスペンスはヒロインが現れないのが肝なんですよねえ。

ジョージ・サンダースにハズレなし!King of 脇役(笑)前に「ナポレオン・ソロ」のリバイバル放送見てたら、かなり年取ったこの方が出てきました。恐妻家のスパイ役で、とても間抜けな結末で(笑)リアルライフの最期はニヒルな遺書残した自死だったんですよね…

ローレンス・オリヴィエもけっこう情け無い役なのに魅力的で、スターも渋い脇役も活かしたヒッチコックの職人芸が光る作品です。