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zoom RSS 神保町シアター 「男優・森雅之」〜「浮雲」

<<   作成日時 : 2009/01/22 00:16   >>

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神保町シアター 特集上映「男優・森雅之」(1月10日〜2月6日)

遂に見ました。このシリーズ最大の目玉作品と言えるであろう名作を。

『浮雲』(成瀬巳喜男・監督 1955年)

私は一度テレビで見たことあるのですが、すごーく昔のことで、しかもなんだかCM入りの放送だったような気がするので、きちんとそれもスクリーンで見るのは、これが初めてです。

もう細かい説明の必要はないでしょう。林芙美子の小説の映画化。女に無節操で、自堕落なダメな男と、その男への未練をいっこうに断ち切れないダメな女が、くされ縁を繰り返しながら、墜ちていく物語。
ゆき子(高峰秀子)と富岡(森雅之)は、戦時中、日本が占領していたベトナムの光溢れる世界で恋に落ち、戦後、帰国してからは醒めたはずの恋の残り火をぐずぐずとかき立て、遂には屋久島に辿り着き、そこで女はボロきれのように死に、初めて男は女のために慟哭する。出会った場所と同じように「南の果ての地」のはずなのに、毎日のように雨が降りしきる屋久島で、二人の恋が終焉したのは、皮肉なのか、悲劇なのか…。

画像


あきれ果てるほどに、どうしようもないダメな男女のグダグダとした物語なのに、しかしこの映像世界はなんと調和の取れた完璧な世界を形成しているのだろう、と私はスクリーンに見入りながら終始感じていました。原作・脚本・演出・美術・音楽・俳優達の演技、すべてが一部の隙もなく「あるべき姿」として映像化されているのです。まさに真の芸術、日本近代文学を原作とした文芸映画の究極の名作だと思います。

高峰秀子と森雅之。火花を散らす激しい演技というのではない。かといって、和気藹々の演技というわけではない。しかし、二人の各々の演技、そしてそれが対峙して、やりとりし合うのを見ていると、これもまた完璧な調和なのです。エゴをぶつけ合い、傷つけ合い、愚痴をこぼし、言い訳をして、それでいて融け合っていく一組の男女をこれほど見事に造形できる、高峰−森はやはり日本映画史上の稀有な名コンビだと確信しました。

屋久島行きの船への乗船を前にして病に倒れてからの、ゆき子はまるで「聖女」のような顔になります。生きていくためとはいえ米兵にまで身をまかせ、妾をしていた新興宗教の教祖から金をちょろまかして富岡を誘い出したようなゆき子が、泥沼をかきわけ生き抜いた果てに、遂に浄化されるまでを演じ切った高峰秀子、数々の映画で名演技を残したその中でも、やはりこの「ゆき子」が最高峰でしょう。

森雅之はいつものダンディさをも犠牲にして、ダーティな面を強調する役作りで、彼の数多く演じた「The ダメ男」の極限となりました。「情けない男」と一言で片付けてもよいのですが、しかし彼のあの「虚無」は、いったい何なのでしょう。いったいどうすれば、あのような「虚無」そのものの男を演じられるでしょう。
そして、この映画では、いつもにもまして、森雅之の「目」の演技が鋭い切れ味を放つ。ベトナムにタイピストとして赴任してきたばかりのゆき子を、夕食の席で毒舌で虐める時の残酷なまなざし。翌日、ジャングルの中で初めてゆき子と口づけを交わす前の「女ごろし」のまなざし。ゆき子と心中するつもりで出かけた伊香保温泉で見初めた若妻・おせい(岡田茉莉子)を「目」で口説き落とす時のまなざし。
だから、こんなダメ男なのに女に全然不自由しなくて、ゆき子を苦しめ抜いてしまうんだ。実際、こんな男に出会ってしまったら、災難以外の何ものでもないんですけどね。

そんな富岡が、最後の最後にゆき子のために泣き崩れる姿は胸を打ちますが、実は原作はまだほんの少し続きがあるんですよね…そこを読んでしまうと救いがなくなってしまうのですが、映画はここで終わってよかったと思う。この男女の関係を、たとえ悲劇であっても、ある種の清しい充足感を観客に与えて、終わらせたのだから。
「花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき」という林芙美子の言葉も、この小説のために書かれたものではないにもかかわらず、映画『浮雲』には、極めてふさわしい幕切れの言葉となっていました。

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今晩は。

おお、いよいよ「浮雲」ですね!
私は数年前にNHK・BSでやっていた成瀬特集ではじめて見ました。
とにかく史上最高の男女のくされ縁映画ですよね。
森雅之と高峰秀子の二人だから演じきれたのだと思います。
雨、雨、雨。日本は気候の心情も本当に湿潤です。
そして、この二人のどうしようもないダメさ加減の美しさに涙が出てきてしまいます。
これこそ日本映画!ですよね。

ところで岡田茉莉子、まだ若くってすごく可愛かったですよね〜。
私もまた再見したくなりました。
ごみつ
2009/01/22 22:19
>ごみつさん、こんばんは!

ほんと、成瀬監督でなかったら、高峰−森でなかったら、陰々滅々の後味の悪い映画になりかねなかったでしょうね。
テーマは違うけれど、ヴィスコンティの『山猫』クラスの、日本が世界に誇る文学的な名画だと思います。

>この二人のどうしようもないダメさ加減の美しさに涙が出てきてしまいます。
そう!美しいです!「墜ちていく」という行為が美しいのですね。そうすると、やっぱり「滅びの美学」かしら?

若くて可愛い岡田茉莉子、すごくぶっきらぼうなのに、あっさりと森雅之と関係持っちゃうんですよねー旦那の加藤大介の末路、切ないです…
なつ
2009/01/22 23:16
浮雲はDVDで何回も繰り返し見ています、森雅之のほとんどの作品を見ています、どの作品も演技力に脱帽しています、
星昌夫
2011/03/23 09:44
星昌夫さん、コメントありがとうございます。
ほとんどの作品を見ていらっしゃるとは、うらやましいです。
現役のある映画監督が、日本映画史上でもっとも色気がある男優は森雅之、次に市川雷蔵と語っていましたが、全面的に同感です。今後も森さんの作品を追いかけていきたいと思います。

2011/03/23 18:28

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